100kmウォーク備忘録

先日“Spectrum Room Memorandum”でネットプリント配信した100kmウォーク備忘録、あれから半月経った身体の変化を追記しつつ、加筆修正版を残しておきます。

きっかけと事前練習
7月は悲しいニュースと、プライベートでも落ち込む別れが重なり、まあいい大人なので仕事や生活に追われることで気分をやりくりしていたものの、友人のひとりに元気がないことをまんまと見透かされた。カホちゃんである。近況報告の食事をしているさなか、彼女はそのひと月ほど前に参加した北海道のウルトラウォークについて感想を共有してくれて、鬱屈していた私にはとても魅力的に映った。今思えば、半ばヤケっぱちだったと思う。歳を重ねるとごとに、悲しい出来事にぶつかった際、うまく落ち込めなくなってきた。生活は破綻しない、その代わり、ゆるやかに日々に影を落とす。他責より自責に気持ちが傾きがちな私にとって、7月の私はどこかげんなりしていた。未知の自分に出会えそうな体験が必要だった。己の限界をさっくり越えたかった。数日後、ちょうどタイミング良く東京でのウルトラウォーク“TOKYO XTREME WALK(通称TXW)”の募集が始まったので、すぐさまエントリー。今年は神奈川からアタックするWESTコースと、千葉から向かうEASTコースがあり、私はWESTコースを選択。Instagramで興味ある知り合いはいないかと募ったところ、友人の萌ちゃんが一緒にエントリーしてくれた。
本番までの3ヶ月はカホちゃんや数々のウルトラウォーク経験談を元に、少なくとも週2-310km歩く日を設けていた。この夏の暑さに敵わなくて、陽が昇るまでの早朝か、深夜くらいしか動けず満足な練習だったとは言い難い。運動習慣がある人と比べたら練習をしていないのも同然の運動量。長距離練習は本番三週間前に萌ちゃんと一度オールナイト練習で山手線沿いを一周(約43km)をした程度で終わった。筋トレは徹底的にサボった。
ウルトラマラソンやウルトラウォークというのは所謂フルマラソン(42.195km)よりも長距離の道のりを進むスポーツである。大会には100kmなど一定の距離を走るもの(距離走)と、24時間走のように一定の時間を走り続けその距離を競うもの(時間走)がある。世界にはとんでもウルトラスポーツがあり、例えば1000マイル(1609km)走や、6日間走(世界記録では1036.8km)、24時間走(世界記録では319.6km)など、100km程度の距離では霞むほど異次元の領域の大会が沢山あるのだ。ちなみに100kmウルトラマラソンの世界陸連公認記録は男子6時間68秒、女子6時間3311秒でどちらも日本人。ウルトラ系の大会は意外と国内でも多く、ウルトラマラソン、ウルトラウォーク合わせると年間100を越える。(今月末は沖縄本島一周、72時間制限で400kmのサバイバルランなんてのも開催される)今回私たちが挑戦したのはあくまでもラン禁止のウォーキング大会なので、そこんとこはあしからず!


23km地点、CP1まで(海老名〜平塚)
スタート地点は海老名市の神奈川県立相模三川公園。前泊した駅前のホテルから約2km移動。荷物を預け、スタート待機列へ。矢井田瞳を聴いていたらおじさんに肩を叩かれ、振り返るとおじさんの向こうに萌ちゃんがいた。萌ちゃんは8時出発なので「道中で会おうね!」と健闘を祈り、AM7:30にスタートを切る。ざっくり見たかんじ、男女比は7:3くらいで30後半-40代以上が多く、シニアもまま見かける。30代前半以下に見える人は2割くらいだろうか。アスリートのような精悍な体型で見るからに健脚の持ち主もまあまあいるけど、普通のおじちゃんおばちゃんお兄さんお姉さんも沢山いる。ただ、ここでスタートを切ったのは、寝ずに100km歩こうとしている、ちょっと普通じゃない人たちだけど。
私はゼッケンA1004、順番だけで言えば前から4番目のアーリースタート枠。健脚の皆さんの風に乗って、スイスイ脚を進め海老名を南下していく。健脚のおじさんの中には、クロックスやサンダルで参加するウルトラレア猛者おじも居る。体感500人に一人くらいだろうか。長距離を歩く最大の秘訣は、水ぶくれやマメを極力回避することだ。歩ける体力がどれだけあっても、足底は極力乾燥を保つことが鍵である。もちろん負傷しながらも完歩する人はいるけど、一説では雨の日のウルトラウォークの完歩率は通常時の3分の1以下になるとも言われている。足の皮ズル向けで100km歩ける人は痛覚の向こう側にいる人たちだ。ということで、足の乾燥はとっても重要なのである。猛者おじ達は、スニーカーの機能性を捨てて軽量さや乾湿を基準に選択することができる、ステージの違うウォーリアーである。そして今回はビギナーランクの私達にも天候が味方してくれて、結果的には快適な気候のなか歩くことが出来た。
5km経って右膝に違和感を覚える。ぎくり。私の右太ももは少々内転気味で、膝から下はそれをリカバリするように太腿に対してちょっと外を向いている。要は右半身だけX脚。日常生活ではスクワットが苦手なくらいだが、山の手線を一周したときは膝裏が腫れた。だとしても違和感を覚えるにはタイミングが早すぎる。痛みを覚える前に鎮痛剤を摂る。こんな調子でここから95km歩けるのだろうか。どんどん後ろから健脚に抜いていかれるけど、はやる気持ちを抑え歩行ペースをセーブすることに。誰かに勝つことではなく、歩き切ることが目標なのだ。
寒川町を通過し平塚市へ向かう最中、萌ちゃんが合流!ここまですごい早さで歩いて来たのは想像がつく。一緒に平塚市へ。体力的にはスピードを出す余裕はあるが、若年層ウォーカーが中年層に敵わない大きな要因は戦略性と根性が足りないらしい。根性はさておき、序盤で飛ばしすぎると後半で差をつけられるわけだ。苦しくない程度に抑えてペースを維持すること。海が見えてきた!海岸のチェックポイントで膝の高さまで茂っていた芝生をかき分け軽食をとり、靴下を脱いで足裏をしっかり乾かす。15分ほど休憩して12:30出発。

34km、午後の海岸伝いの道。CP2まで(平塚〜湘南)
平塚から茅ヶ崎、辻堂、湘南海岸と海に沿って歩いていく。夜は茅ヶ崎サザン芸術花火大会が行われるらしく、一部道路規制が行われていた。安室奈美恵花火大会みたいなものだろうか。ここでリタイアして夜に花火でも見て帰るのが人生の選択としては正解では?と思いながらもスタスタ歩みを進めていく。
道中に黒テープで「さあ行こう前を見て」と書かれた手製の板を立てて爆音でサザンオールスターズ「希望の轍」を流しながら拍手で迎えてくれる希望のおじさんとの邂逅で初めて涙腺が緩まる。これから希望の轍を耳にするたび、私は貴方のことを思い出すことでしょう。サンキュー!
歩道から砂浜脇の道へ移動してチェックポイントへ向かう。萌ちゃんと軽口たたいて笑い合いながら気丈に歩いているけど、狭い道、ほぼ砂浜状の道など歩きづらくていやらしい道が続く区間だった。
私たちTXWWESTコースでは、100kmではなく、34kmで完歩のビギナーズ部門というクラスもあり、彼らはCP2がゴール。「ビギナーズすっ飛ばして100km挑戦しちゃったね〜」「山手線一周で43km歩いたからビギナーズ履修済みということで!」と言いながら、しっかり休憩を取る。休憩を挟みながらも、7時間歩きっぱなしで体のダメージはしっかり蓄積されている。鎮痛剤を足して15:30出発。もうすぐ夕暮れ。

55km、夜の始まり。終わらない勾配に削られる。CP3まで(湘南〜保土ヶ谷)
スティーヴン・キングが大学生の頃に書いた事実上の処女長編小説「死のロングウォーク」という作品がある。高見広春「バトル・ロワイアル」が影響を受け、当人が著作の原型とも説明した作品として知られているが、いわゆるデスゲーム物の走りの作品だ。ルールは簡単で、100人の十代の少年を歩かせる。最低速度は時速4マイル(時速6.4km)。これを下回ると警告を受ける。休憩は無し。3回警告を受けたら、その次は射殺。極限の状況で描かれる友情や100人分の機微が描かれていて(デスゲーム・スタンドバイミーだと思ってくれればいい)、Sキングのなかでも特にお気に入りの作品だが、映画化するという報道が出たのち、最後の続報から4年経っている。「それでいうと私達、とっくに射殺されているね」と交わしながら江ノ島を越え藤沢を北上していく。戸塚地区は長い勾配が長く続いて膝に来る。声が思うように出ない。目がチカチカしてくる。萌ちゃんの背中を追う。痛みが集中力を削ぐとてもじゃないけど休憩なしでチェックポイントには辿り着けない。18:20転がり込むようにマクドナルドへ。判断力が著しく低下していて、正直よくわかんない状態で目に入った文字を声に出してあれこれ注文。平時の胃でも受け付けない量を頼む。帰宅後あすけんに登録したら1580kcal摂っていた。「やってもうた〜」と思ったけど、胃もたれするどころか濃い塩味とシェイクの甘味でガツンと覚める。結果的にこのあとゴールまでの15時間、固形が喉を通らない状態で歩くことになるので確実に身を助けた。
マックを出てチェックポイントへ向かうものの、戸塚の道は異常なほど長い。歩いても歩いても脱出できない。日中と比べて風がかなり冷えている。私は食事で脳が冴えてきたけど、萌ちゃんは痛みがつらそうで、励ましながら歩く。山手線一周の距離を越えた。二人のカラダにとって確実に未体験ゾーンに突入していて、鎮痛剤を飲んでも痛い。勾配を登ってきたのにCP3の横浜市児童遊園地の入り口は心臓破りの坂。オールスター感謝祭ですか?「オイオイ朝日新聞社〜!!!!(主催)」と声が漏れながらもチェック。21:15、関門時刻まで残り15分だった。55km。カラダが固まると余計につらくなるから、休憩は長く取れない。終電を考えても、ここでリタイアを決めないなら、あと45km歩かないとならない。21:35お互い意を決して、黙って立ち上がった。
CP3の入り口のところで「関門時刻過ぎました」とスタッフに失格宣告されて腰を落とすおじさんのそばを通過する。彼らの気持ちまで背負って必ず帰ろうと覚悟を決めた。

69km、北風と睡魔、カフェイン。横浜へ!CP4まで(保土ヶ谷〜横浜)
100kmウォークにあたって、ノルディック・ポールを買うか悩んでやめたけど、大学のゼミの旅行で買ったトレッキングポールがあったので、万が一の為に事前に保土ヶ谷駅で母にポールを渡してもらうことをお願いしていた。バカな挑戦を決めた娘を面白がりながら応援しつつも、本番の日が近くなるにつれ身を案じてヤキモキしていた母は快くミッションを引き受けてくれた。事前の調べによると暗黙のルール上、道中の物資の支援や買い込みはOK、ただし当人が鎮痛剤を現地調達するのはダメ(そのエクストリームさに、おそらく正常な判断が取れないから?)というコメントを見かけたので、ロキソニンも一箱頼んでおいた。予定時刻を1時間オーバーしていたのに気丈に待ってくれた母に本当に励まされた。強強打破まで買ってくれていたけど、胃が泣く気がしたので丁重に断った。ポールを一本づつ、ロキソニンを1シートづつ萌ちゃんと分けて「絶対帰ろう!」と誓う。使えるカードは全て使う、私たちは必ず帰る。退路を絶って、いざ横浜へ。一本でもポールがあると痛みがかなり分散された。いや全然痛いけど。上半身はまだ使える。両腕に働いてもらって、脚を動かす。余裕が少しできたことで、ここまで膝を庇うために歩いていたので他の部位のダメージも気になってきた。ふくらはぎが攣りそうなのでカフェイン入りのマグオンでマグネシウム補給。みなとみらいに差し掛かると爆音車が2分おきに車道を通る。爆音ドライバー達は無自覚だろうが、発せられる排気ガスと爆音のダブルパンチは堪えた。波状攻撃ってこういうことね。MP削れる。私が一国の総理なら、爆音車に重税を課す。
1:15頃、横浜駅すぐのCP4ポートサイド公園へ到着。CP3から固形物が食べられなくなっていたものの、ここで渡された味噌汁は芯から沁みた。スマホに届く応援メッセージの通知を確認する余裕さえ残ってなかったが、Apple Watchの通知越しにいくつか見えていた。噛み締めつつガジェットの充電をするのが精一杯。CP1に向かう途中で早々に私を追い越して行った健脚おじさんが休息テントで体を丸めて眠っているところを見かけた。息は浅く、みんな耐えているんだと伝わった。事前のシミュレーション目標からこの時点で1時間45分ほど遅れていたと思う。自分で設定した目標時間内に到達するのは無理だろう。でもまだ制限時間には多少だけど余裕はある。口数は日中と比べたらかなり減ったけど、気休めの軽口は、お互いまだ気合いで叩いている。完歩したらカウンター鮨で祝杯あげようね。

87km 神奈川からの脱出、最後のチェックポイントへ(横浜〜立会川)
スティーヴン・キングは、時速4マイルで何キロ歩いたことあるんだろう?あいつァ現実を知らんな。と考えながら歩みを進める。帰宅後に知ったけど、今大会最速完歩者のお姉さんは0時前には新豊洲に到着していたらしいので、現実を知らないのは私のほうだった。100km…16時間で?マラソンじゃないのに、24時間テレビでも昼前には到着してしまう計算!すごいなあ。国道は広く、平坦で、深夜は人影も少なくとても歩きやすい。戸塚も大概広いなと思っていたけど、壊れかけた体で曲がり道なく横浜から銀座へ続くおおよそ30kmに渡る第一京浜の道は長い。カフェインと鎮痛剤を入れても疲労に邪魔されて二人とも足がおぼつかない。ペースが落ちるこのままじゃ間に合わない。萌ちゃんと相談して「お互い音楽の力を借りよう」と各自イヤホンを耳に突っ込み、ペースアップに集中。エントリーした直後にプレイリストに詰めた、120BPM108曲に感謝。練習中はずっと聴いていた。ロックもポップスもK-POPもなんでもござれ。リズムに合わせてポールでツカツカとアスファルトを叩いて進んでいく。この時点で二人とも痛みに対して開き直っている。
 いけるとこまでブースト。川崎を越えて、多摩川へ差し掛かる!会いたかったよ東京。帰ってきた東京。泣きそうだ。ここまでちょうど80km歩いてきた。ゴールまであと20km。時刻は4:19、空はまだ暗い。時間が迫ってくる、這ってでも帰るしかないだろ!

100kmまで、13km。孤独なラストファイト。(立会川〜新豊洲)
 AM6:05 鈴ケ森道路児童遊園(品川区)ここが最後のチェックポイント。脱水症状を自覚しつつも自販機に手を伸ばす余裕もなく、テーブルに並べられたポットのボタンを押す力もなく水も飲めない。CPにはずっとスタッフが補給場に居てくれたのに、最後にセルフかよ!とかくこのままでは危険推移だと悟り、萌ちゃんと分かれて最後の鎮痛剤2錠と、手持ちの栄養パウチ全部飲んですぐ出発。手を振り続けても長時間が歩いていると流石に手がパンパンにむくみ、蓋つきタイプの栄養ドリンクは開けるのにも苦労する、千切るタイプ、助かる!この時点でAM6:10。制限時間まで3時間20分貯金があってラスト13km、普段なら余裕だけど、カラダはもう別物だ。
 思えば遠くへ来たもんだ。などと感傷に浸る余裕は残っていなかった。ここまで右膝は最初に鎮痛剤を飲んでから80km以上頑張ってくれている。あんた偉いよ。既に自分ではペースがうまく掴めないので、同じタイムリミットのゼッケンを下げたおじさんを見つけて「邪魔はしないので並走させてください」と挨拶をして彼に食らいつきながら、新豊洲を目指して北上していく。品川、泉岳寺、三田駅は山の手線を一周した時にも萌ちゃんと歩いたルートで(もっとも、前回は時計回りで歩いていたので向きは逆方向だが)ここまで来たのかとだんだん実感が湧いてくる。気を強く持って、脳からカラダに命令を出し続けるしかない。大門あたりから歩きながら過呼吸が出始めボロボロ涙が出てくる。自分のために歩くことを決めたけど、こんな一個人の挑戦を面白がって応援してくれた人は意外といて、思いもよらなかったし、だったら絶対に良い報告をしたい。自分のためだったはずだけど、最後は周りに返したいという気持ちが一番のガソリンになっていた。間に合わないとは思っていなかったはずだけど、身体の悲鳴がコントロール出来なくなり、今思えばいよいよまずいかもと本能的に感じている状態。身体の変化に揺さぶられないように、とにかく酸素を入れようと気合いで呼吸を正し、腕を振ってポールを伸ばす。少し経つとまた涙と過呼吸のループに陥る状態。なんとか呼吸と脚をポールのペースに合わせて動かす。並走していたおじさんもウルトラウォーク初経験で「無我の境地ってこういうことなんやな〜」と呟いていたが、そうかもしれないね。ここらへんから首から上が痺れ出す。汗もかかなくなり、喉は渇き切っていた。余裕のない汐留、新橋、銀座、築地。
 変わり映えしない景色が続く長い区間をいくつも歩いてきたのに、慣れ親しんだ銀座から勝どきまでの大したことないはずの距離が果てしなく遠く感じる。勝どきから晴海、晴海から新豊洲までの橋が険しい。おじさんのペースに食らいつけず、ゴールで会いましょうと見送る。何度も転びそうになりながらポールで支えるの繰り返し。まだ過呼吸が邪魔をする。立ち止まっていないはずなのに全然貯金が残っていないが、橋の先にゴールが見えている。「ばかやろ〜〜う!!!!絶対間に合わせる!!!」とポールで支えるのをやめて歩き出す。時間が惜しい。勇気ある撤退をするタイミングはいくらでもあったけど、ここまできたら間に合わないわけにはいかない、ここまで歩けたなら絶対に歩ける。火事場の馬鹿力ってこういうことなんやな〜。そしてゴール。
 25時間56分、タイムリミットまで残り4分だった。人体は脱水症状が進んでいても涙が出るらしい。安堵してから気づいたけど、ずっとクラクラしていた。本当は支えがなければ、もう座ることも立つことも出来なかった。

到着
 終わり良ければすべて良し。こんなギリギリで到着するなんて故意でもできない。あとひとつやふたつ信号に足止めをくらっていたら、あと一度でも小休憩を挟んだらタイム・オーバーだった。予定時間には間に合わなかったけど、制限時間には滑りこんだ。ぺらぺらの一枚の完歩証だけど、宝物箱に入れておこう。到着後しばし呆然としつつ、約15分後に萌ちゃんと再会!彼女がいなかったら私はほぼ確実にリタイアかタイムオーバーだったに違いない。彼女も無事完歩して、私たちの挑戦はギリギリとはいえ成功したのだ。

ゴール後の体の変化
2日目
・食欲なし。内臓もしっかりダメージ。せいぜい水分補給と栄養ドリンク摂るので精一杯。ゆるゆるホニャホニャおうどんがおいしい。
・体は痛いが鎮痛剤を飲めば歩けなくはないという感じなので、完歩ハイでついつい外出したがる。(ボロボロだったのに完歩翌日は18kmほど歩いていた)
・体重はほとんど変わらず。運動習慣のないカラダだからか、全身これでもかと浮腫んでいる。太ももと膝裏は腫れ、ふくらはぎは破裂しそうなほど。揉んでも揉んでも痛い。
5日目
・筋肉痛はほとんどおさまり、徐々に食事は摂れるように。体重も体脂肪も落ち始めていた。正直食欲不振によるのか、運動の効果なのか果たして不明なタイミングだが、調子に乗ってお肉を23切れ食べたら具合が悪くなったので、内臓が栄養の消化や摂取に対してストライキを起こしているには違いない。萌ちゃんの整体の先生曰く、疲れが溜まると、その疲れを処理するのにからだがいっぱいいっぱいになってしまい、肝臓がエネルギーを生み出せなくなり食欲不振、疲労感につながるのだそう。完全に身に覚えがあるどころか、CP3の頃には既に肝臓にキテいたということではなかろうか。
7日目
・食欲は戻り、体も8割がた回復してきた。歩行時の痛みはすこし気になる程度に治る。体重は-2kg
・体脂肪率の推移は不思議で、完歩直後は0.6%ダウンだったのがトータル4.6%ダウンでした。隠れ肥満タイプには絶大な効果を確認。(そういえばウルトラウォークの先輩カホちゃんも4%落ちていたと言っていたなあ。)
ちなみにアクティビティをしていた26時間の計測中の消費カロリーは私の基礎代謝も含めておよそ7200kcal
3週間経って現在
・大会直後には痛まなかった身体の部位が、日が経つにつれ痛み始めることも出てきた。両脚膝裏の腱のダメージが蓄積されていることにより、医師からはしばらくヒール禁止+あまり歩かないことを指導されている。といっても仕事や家での作業もあるのでなかなか全く歩かないことは出来ないため、耐えられない痛みではないものの、鎮痛剤は今でも割と使う。脚のダメージは骨格や歩き方など各々差が出る部分なので、あくまでも運動習慣のない私に限ってはこんな感じ。
・身体のケアに力を注いでいるぶん、体脂肪率は1%ほど緩やかに戻ったものの、体重やその他の増減は控えめ。今回の大会で、触感でいちばんの変化は腰回りの肉がわかりやすく削がれたこと。食欲は戻りました!

雑感
 完歩当初はあらゆる感覚が初体験で、とても感想をまとめる余裕もなかったものの、日が経つにつれ達成感や実感が湧いてきた。人並みだけど、今後よっぽどの苦境でもない限り「まあ、100km歩くのに比べたら」で一蹴できるだろう。実のところ100km歩いている最中は、今回のきっかけになった出来事らを思い出すことはほとんどなかった。それだけ集中して、楽しめていた証左でもあると思う。事前の準備やカラダへのダメージ、いろんなものの上に成り立っているアクティビティなので、気軽にまたやりたいとは言えないけど、もし次があるならもっとうまくやれる、という思いは強い。
 また、山手線一周のときは42kmをゴールにしていたから41kmを越えたころから「もう無理!100mだってきついぞ!」と感じていたけど、本番当日はなんてことはなかった。ゴールの設定が長いと、その過程の距離の疲労感はかなり軽減される。そう、過程だと思えば耐えれる辛さというカテゴリがあるのだと知った。そして折々の気分や精神力は本当にどうしようもなくなった体ですらよく動かしてくれる。根性の作用というのも改めてよく実感した週末だった。人生みたいだな。
 偉業を成し遂げたかのような書きぶりだが、実のところ私たちのコースでは今年の参加者は1340名ゴール者数1135名で完歩率84.7%。予習で平均完歩率は75%だと聞いていたが、どうやらTOKYO XTREME WALKの完歩率は年々向上しているらしく、これはリピーターの数も年々増えているからでは?と邪推。なぜなら気づけば私自身、不思議とまた来年も参加したいなって思い始めているから!

装備・・・なるべく軽くが基本!しかし備えあれば憂いなし。
▶︎ウェアには金をかけるべし、これは防具。
CW-X着用者多数。私もCW-X。シューズはホカオネにした。/寒暖差を見越して軽量の防寒具も重要。/五本指靴下は安くてOK、替えもあると良い。
▶︎保護クリーム、体の摩擦を軽減させるもの
私は過激なスポーツをやる人向けのProtect J-1を使用。萌ちゃんは馬油を使っていた。界隈ではワセリン信仰など、各派閥に分かれている。足底や指の保護はもちろん、ウェア次第ではお尻の皮、男性は乳首まで剥けてしまうので必須品。
▶︎状況に応じた栄養濃縮液/ドリンク
気持ち多めに持つと良。大会前日、完歩後の疲労回復にも役立つ。体脂肪を落としたい人は、体内の糖質エネルギーを温存したまま、体脂肪を優先的にエネルギー源に変換し続ける栄養濃縮液の VESPAなどを使うと良いかも(ちょっとお高い。ここぞというハードアクティビティのときに!)
▶︎ノルディック/トレッキングポール
かさばるけど中盤以降身を助ける。脚の負傷が完歩の決め手になるかも。途中から物資で渡してもらうか、折り畳み・軽量タイプを持参。
▶︎モバイルバッテリー
かなり消費するので持参必須だけど、持ちすぎなくてOK。スマホ・イヤホン・スマートウォッチ程度なら20000mhあれば充分。都会のウルトラウォークならコンビニのチャージスポット利用しつつで、10000mhで間に合いそう。私は見誤り35000mh持参しました。重かった。
▶︎ガッツと良き仲間
経験者か、根性と体力自慢の人は一人でも完歩できそうだが、初心者は一緒に歩くパートナーを見つけるのが完歩にあたって、とても重要だとポイントだと思う。つらいとき、お互いがペースメーカーになる。特殊なアクティビティなので一人参加でも現地で即席でパートナーができることも多い。ゴールを目指す者同士、味方ではないかもしれないけど、同じ志を持った仲間同士だから。あいさつや、声を掛け合う大切さ!極限に触れるアクティビティだからこそ、人の本性が垣間見えると言う意味では、ライフパートナーと試してみるのも面白いかもしれません。(割と見かけた)
今回のパートナー萌ちゃんの参加レポのリンクも貼っておくので、よかったらこちらもぜひ
おもしれー女になりたかった / TOKYO XTREME WALK 100 WEST参加レポ

Podcast「よもやまトゥーマッチ」でも内容は割と被りますがお話ししています〜。